安全保障・防衛・国際政治・外交問題のスペシャリスト 森本敏

森本敏の国際観


「政策の転機を画す新防衛大綱」


今回策定された「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」は今までの大綱・中期防と比べて相当に完成度が高い。北朝鮮への脅威はもとより、中国への懸念に対応しうる防衛戦略の方向と指針が示されたことは大変意義深い。


≪全ての領域に横断的に対応≫

新大綱は最大の命題を「従来の統合機動性の方向を深化させつつ、宇宙・サイバー・電磁波を含む全ての領域における能力を有機的に融合し、真に実効的な防衛力として多次元統合防衛力を構築する」ことに置いている。


国家防衛の真骨頂は、有事において真に有効な打撃力を発揮して、相手に打ち勝つ戦い方をすることにある。新大綱の命題はそのために、わが国の防衛が追求すべき目標と指針をより明確に示したものである。新大綱に基づき実行すべき内容と検討すべき内容を区分して明記してある点も良い。


また国家の防衛を、わが国の防衛体制と日米同盟と多国間の安全保障協力という3つに区分して強化の方向を示し、中でも多国間協力について国ごとに具体的な方針を示したことも適切だ。


ただ、防衛大綱の指針は国家安全保障戦略から導き出されるものであり、新大綱策定の前に国家安全保障戦略の見直しが行われるべきだという感はぬぐえない。


新大綱の最大特徴は、宇宙・サイバー・電磁波といった領域横断分野への対応である。これらはまだ緒に就いたばかりだ。当面、サイバー・電磁波は陸上自衛隊、宇宙は航空自衛隊が中心となって進められるが、将来はこれら3分野とも、統合幕僚監部の指揮運用下に置かれる合同部隊によって運用されるべきであろう。


この領域横断分野は今後、政府内・民間・米国などとの連携・協力を強め、部隊編成や人材育成・技術革新を拡充する必要があり、予算も急増することが予想される。これを実行するためには政治指導力も必要だ。


また、他国から攻撃を受けた場合の武力行使基準について、国際的ルールや規範づくりに取り組むことも必須であり、その点は新大綱が指摘している通りである。


≪統幕の統合運用強化が必要だ≫

新大綱・中期防は大変充実した内容で異論はないが、実務面から見て若干の印象を加えたい。


第1は、多次元統合防衛力を構築するためには統幕のあり方をさらに見直す必要がある。統幕による統合運用は現在、(1)広範な大規模災害救援活動(2)弾道ミサイル防衛対処(3)統合演習や他国との統合・合同訓練-などの分野に限られているが、今後はそれを一層、拡充する必要がある。


そのためには、(1)統幕長の権能拡大と統幕組織の拡充(2)統幕指揮所の開設(3)予算の拡充(4)領域横断分野やグレーゾーン事態の活動や輸送・補給など後方支援活動の一括運用(5)統幕総括官制度(文官)の見直し-などを行うべきだ。


第2は、F35B機の調達と「いずも」型護衛艦の運用は適切な判断であったと確信する。しかし、F35B機を洋上防空のためにより有効に運用するには将来、水陸両用艦艇(3隻)を導入する必要があろう。また、敵基地攻撃の必要性を論じる向きもあり、わが国の防衛システムの射程外から発射される長射程ミサイルに対応できなければ、隊員の生命は守れない。


そのためには、スタンドオフミサイルを導入することに加えて、相手より射程の長い中長距離地対艦・地対地ミサイルを装備することは南西方面の防衛にとって不可欠である。これをわざわざ敵基地攻撃能力だという必要はない。


 ≪組織一丸で自衛隊の士気高めよ≫


第3は防衛費である。これには国民の理解と支持が必要だが、1億を超える国民、3千万を超える訪日外国人、6850を超える島嶼(とうしょ)からなる領土、膨大な経済権益を守るには経費がかかる。恐らく、中期防は対国内総生産(GDP)比1%を超えるであろう。


他方、日本の防衛費の対GDP比が低く米国からとやかく言われるが、日本の防衛費は防衛省の予算であって、北大西洋条約機構(NATO)基準は退役軍人年金や他国への財政支援、平和活動としての人道支援などを国防費に含めている。日本の防衛費に旧軍人恩給や政府開発援助(ODA)予算も含むと1%をはるかに超える。対外的にはこの数字を使って説明するルールを作るべきだ。


第4に情報活動については、情報保全や知的財産保護の体制が不十分である。防衛省が民間業界に委託する研究開発や装備調達についても情報保全は私契約(特約条項)によって行われており、特許も公開されるためにできない。しかし、この現状を放置すると他国との共同開発に支障が出る。これらを見直す時期に来ている。


第5に士気・規律の改善である。人口減少などで自衛隊は隊員不足に苦しんでいる。それより深刻なことは最近、普通では考えにくい事故・事件や報道機関へのリークがみられることである。まず現員の士気・規律を高めるために、組織が一丸となって取り組むことが必要である。




2018年12月