安全保障・防衛・国際政治・外交問題のスペシャリスト 森本敏

森本敏の国際観


「湾岸有志連合にどう対応するか」


≪イランをめぐる緊張関係≫

米国とイランの確執はイラン革命後の国交断絶を含め、およそ40年に及ぶ。米国はイランの核開発およびテロ支援を容認せず、イランも米国の中東湾岸への軍事介入や経済制裁に反発してきた。


それでも、JCPOA(包括的共同作業計画)という合意が2015年7月にEU-3(英・仏・独)とP-3(米・中・露)およびイランの間で成立したのは、イランの核開発を凍結しようとするEUやP-3側と制裁解除を実現して、経済発展を進めようとするイラン側の利益が一致したからである。


しかし、トランプ政権は、2018年5月にJCPOAから離脱を宣言して経済制裁を復活させたため、イランも核開発を再開してウラン濃縮をすすめ、一方で、米国を牽制(けんせい)するため、タンカー攻撃や無人機撃墜などの挑発活動を始めた。英国船籍タンカーの拿捕(だほ)やCIAスパイ容疑者の逮捕事案も緊張を高めている。


外交による緊張緩和が望ましいが、イランのハメネイ最高指導者は米国と対話する考えはないと断言し、米国も大統領選挙が近づくにつれて妥協できる状況にない。


安倍晋三首相は6月にイランを訪問し、ロウハニ大統領、ハメネイ最高指導者と会談して対話を促したが、1回の訪問で成果が出るような問題ではない。日本はイランとの友好関係を活用して、9月の日・イラン首脳会談を含め外交による問題解決に努力すべきであり、日本はそれができる特殊な立場にある。


一方、米国はタンカー攻撃、無人機撃墜もあり、原油タンカー防護のための有志連合構想を関係国に示し始めた。ポンペオ国務長官は湾岸地域に原油を依存している国はコストとリスクを担うべきだと言い、トランプ大統領は湾岸に原油を依存している国は自国で船舶を守るべきだと言ってきた。


各国がタンカーを自国で防護すべきとの考えは変わらないが、米国は有志連合構想に多数国の賛同を得てイランに対する抑止を強めたいと考えているのであろう。ただ、この有志連合は各国艦艇に情報提供したりする緩やかな調整のための枠組みであり、指揮権は全く有していない。


≪検討する評価要素は何か≫

日本は有志連合の構想に賛同しても良いが、実際に行動する場合には関係国の対応などを見極めながら慎重にすべきである。現状では、有志連合に部隊を送るような切迫した状況にはない。


今後、有志連合への取り組みを考える際の評価要素は、(1)日米同盟重視の観点からどのようなリスクやコストを払うべきか(2)湾岸や欧州・アジアの関係国の対応を見て日本はいかなる手段をとることが望まれるか(3)中東に原油の8割、天然ガスの3割を依存し、ホルムズ海峡にその8割を依存している日本としてエネルギー安全保障、国内経済発展の観点から、いかなるリスクを払って海上輸送路と国民の安全を守るべきか(4)良好な日・イラン関係を維持しつつ対応する手段とは何か(5)いかなるリスクとコストを払うことが国民の幅広い理解と支持が得られるか、であろう。


原油輸入国はコストを払えという米国の主張は理解できるし、日本としては財政支援をすべきであるが、それをやれば後は有志連合任せというわけにはいかない。


≪実際に考えられる選択肢≫

従って現状をみる限り、すぐに行動する必要はないが、当面は外交手段による解決を模索しながら事態の変化に迅速に対応できる態勢を検討しておくべきである。


実際の選択肢として考えられる手段は、(イ)海賊対処法の適用(ロ)海上警備行動の発令(ハ)特別措置法の制定(ニ)平和安保法制の適用-であろう。


(イ)は、すでにソマリア周辺のアデン湾に海上自衛隊の艦艇、哨戒機を派遣している海賊対処法を拡大して対処することであるが、これは法律の趣旨からして無理がある。


(ロ)は、海賊対処法を制定したときに暫定的な措置として行ったことがあるが、本来、限定的な行動である。


(ハ)は、目的に合致し米国などから評価される可能性はあるが、国内で政治的リスクを負う。


(ニ)は、存立危機事態や周辺事態といった状況にはなく、国際平和支援法は後方支援であり、国際平和協力法は国連決議が必要であるため困難である。


いずれにしても、船団護衛を派遣して、かえって日本タンカーがリスクを負うようなことはあってはならない。まずは、外交努力によって対話に尽力しつつ、事態の変化に応じて、国民の安全を守りエネルギー安全保障や日米同盟を重視していかなる取り組みをすることが最も国益に合致するかを考慮して、国民の理解が得られる手段を多角的に検討すべきである。


そして、ひとたび手段が決まったら、その活動を確実に実行すべきである。こうした全体の対応ぶりで日本の真価が問われることになるであろう。




2019年7月