安全保障・防衛・国際政治・外交問題のスペシャリスト 森本敏

森本敏の国際観


「米朝の「危うい合意」を警戒せよ」


≪会談は双方にとってメリット≫

米朝首脳会談は恐らく実施されるであろう。それは双方にとってメリットがあるからだ。会談実現は、トランプ大統領がリードする圧力と制裁が奏功したためだが、米国内政上の事情もある。北朝鮮も、トランプ大統領が実力を行使することを恐れており、対話によって体制の保証が確保でき、経済支援が得られるなら対話の席についた方が得だという考えがあり、中国の勧めもあるに違いない。


首脳会談で米国は核・弾道ミサイルのCVID(完全な検証可能で不可逆的な廃棄)を求める検証計画を示すであろう。これには全ての廃棄対象が適正に申告され、それらが確実に検証(査察)され、全てが廃棄される措置が含まれる。申告漏れがあったり査察が一部でも拒否されたり、廃棄されても開発が再開できるようでは意味がなく、簡単でない。査察には国際原子力機関(IAEA)の協力も必要であり、非核化プロセスや手順について具体的な合意ができるかが最大の注目点である。


一方、北朝鮮側が求めるのは体制の保証である。米国が北朝鮮指導部を抹消しようとすれば不可能ではないであろう。金体制の存続の保証は北朝鮮の最優先課題である。北朝鮮を軍事攻撃しないこと、周辺に戦略システムを展開しないこと、敵視政策をやめ在韓米軍を撤退させること-などを確約してほしいと要求するであろう。


≪北の核・ミサイル放棄はない≫

また、北朝鮮は経済面での支援を求めるであろう。国連制裁解除は米国の一存では不可能としても米国独自の制裁解除、エネルギー支援、人道援助などは可能である。これらを包括的パッケージとして提示して取引するだろう。拉致問題の協議を念頭にした日朝首脳会談を米国が北朝鮮に約束させて、日本からも支援・援助を出させるということもありうるであろう。日本は断りにくい。


北朝鮮が今年になって政策転換をしてきた背景を考えてみたい。昨年9月に水爆実験を行い、11月には米本土に到達する弾道ミサイルの実力を見せ、一定の自信を持ったものの、核・弾道ミサイルの開発は完結していない。しかし、北朝鮮が核保有し、周辺諸国に届く弾道ミサイルを保有していることは証明できた。


一方、これ以上の経済制裁が続くと今年後半以降、みじめな社会が出現する。米国に手を出されると政権存続も危うい。それまでに核・ミサイルを政治のテコに活用しよう。そこで韓国を引き付け、中国型の開放経済も受け入れることとして、中国の支援を取り付けた。次に米国との道を開いて核・ミサイルのモラトリアムを約束し、挑発を停止して米国から保証と支援を受ける姿勢に出てきた。


しかし、北朝鮮が核・ミサイルを本気で放棄する考えはないであろう。実験はモラトリアムを宣言して当面やめる。しかし、持っている核とミサイルを廃棄するまでには複雑なプロセスと膨大な時間がかかる。すると米国、韓国や中国にとっては受け入れ可能な合意でも日本にとって核・弾道ミサイル脅威は変わらないということもありうる。次回の大統領選挙までに非核化は実現するのか。いずれにしても、首脳会談は非核化と体制生き残りの手だてが相互に取引されて、多くの問題を後に残しつつも「会談は成功だった」という結果になるであろう。


≪日本は重大な岐路に立たされる≫

その次は半島の将来をどうするのかという問題になる。その中心課題は南北首脳会談後に出された「板門店宣言」にある平和協定に集約される。同宣言では(1)南北は段階的に軍縮を実現し、完全な非核化を共通目標とする(2)今年、朝鮮戦争の終戦を宣言する(3)休戦協定を平和協定に転換することを南・北・米か、南・北・米・中の3者か4者ですすめる-ということが約束された。しかし、平和協定は少なくともロシア、日本を加えた6カ国で協議する必要があり、国連代表部の参加も必要となるだろう。この協議体はかつての6者会合とは異なるが主題が決まっているわけではない。


ただ朝鮮国連軍が消滅し、米韓合同司令官の指揮統制権の韓国委譲や在韓米軍の撤退・縮小も議論されるだろうが、これは本来、休戦協定を平和協定に転換することとは関係のない問題である。在韓米軍は米韓同盟の問題であり、撤退は考えにくいが、中国、ロシアにとってはない方が望ましいという面もある。日本が、在韓米軍のプレゼンス次第では米国の東アジアにおける前線国家となる可能性もある。また、国連軍後方司令部(横田基地)も朝鮮国連軍とともになくなり、朝鮮国連軍地位協定も休戦協定がなくなれば90日以内に失効する。


いずれにしても、米朝首脳会談により北朝鮮の核・ミサイル脅威が本当に廃棄されるのか、脅威が残った場合の北東アジアの構造はどのようになるのか、日本の安全保障は極めて重大な岐路に立たされる。日米同盟のあり方を含め、将来を見据えた安全保障観をもって対処することが求められる。




2018年5月