安全保障・防衛・国際政治・外交問題のスペシャリスト 森本敏

森本敏の国際観


「北朝鮮の挑発にどう対応するか」


米国の研究所は北朝鮮の動向と韓国選挙の関係をデータ分析して、選挙後1週間内に挑発があるとの結論を導き出していた。その通り、5月14日に新型弾道ミサイル発射が行われたので驚かなかったが、ミサイル開発の着実な進展は大きな懸念である。


≪太陽政策の繰り返しは避けよ≫

この挑発の目的は米国に対する抑止力の示威である。就任演説で「条件が整えば」北朝鮮に行くと言っていた文在寅・韓国大統領にとっても水を浴びせられた形になった。とはいえ、文在寅大統領はこの選挙公約の実現は決心していると思う。


金大中・盧武鉉政権と続いた太陽政策は結局、北朝鮮に食糧援助などを取られただけで核凍結はうまくいかなかった。米国も同様の結果となり、オバマ政権は「対話のための対話はしない」といって米朝対話から手を引いた。


ところがトランプ大統領は、条件が整えば金正恩朝鮮労働党委員長と会ってもよい、と言っている。文在寅大統領は米韓同盟を重視する姿勢を見せており、北朝鮮に接触する条件を米国と協議するだろう。


韓国の条件とは、(1)北朝鮮の非核化(2)経済・文化・メディア・体育などの交流(3)緊張緩和の推進-などであり、北朝鮮は(1)開城工業団地・金剛山観光の再開(2)米韓合同演習をしない(3)在韓米軍や高高度防衛ミサイル(THAAD)の撤廃(4)対北敵視政策をしない(5)平和協定交渉(6)食糧・エネルギー支援(7)北朝鮮を核保有国として認知する-などが考えられ、双方の溝はかなり大きい。これらの条件を協議しても一致点を探すことは容易でない。北朝鮮にとっても核・ミサイル開発は金正恩体制の存続にかかわる最優先課題であり、妥協の余地は少ない。太陽政策の繰り返しは決してやるべきでない。


北朝鮮の核兵器の小型化・弾頭化がどこまで進んでいるかが鍵であるが、ほぼ実現するとみて対応を検討せざるを得ない。弾道ミサイルが米本土に到達するまでには少し時間があるとして現時点での選択肢は理論上2つある。


≪予想がつかない報復攻撃≫

第1は軍事力で外部から圧迫し、ミサイル防衛などの抑止機能を確保しつつ経済制裁を強化し、核・ミサイル開発や挑発行動を不可能にするところまで追い込むが、先制攻撃はしない。


これに対し、第2は核搭載ミサイルが米国本土に到達する可能性を「レッドライン」と見なすが、それまでは核再処理施設やミサイル開発生産施設に精密限定攻撃をかけて破壊し、北朝鮮の核・ミサイル開発計画を遅らせる-というものだ。

しかし、核兵器開発に成功していれば核の報復を受ける。それがなくても、北朝鮮の110万人以上の通常戦力や神経剤VX搭載弾道ミサイルの報復攻撃で、膨大な被害が出ることを覚悟する必要がある。


北朝鮮に対して先制攻撃をしても核・ミサイルや関連施設の完全破壊は不可能である。朝鮮半島には(THAAD部隊を含め)米軍約3万人のほかに軍属・家族・関連企業関係者約21万人がいる。日本人約7万人を含めた外国人数十万人に事前に通報して撤収すると、北朝鮮は十分な報復準備をするか、先制攻撃に出る可能性は大きい。いずれにしても犠牲を考えると第2の選択肢は全く取れない。第1の選択肢でも、金正恩体制が生き残れないとみた場合には、北朝鮮は何をするか予想もつかない。


≪議論よりも実行を優先せよ≫

われわれがやるべきことは、第1に日米韓の緊密な連携の下に、抑止機能を効果的にするため最大限の努力を行うことである。日米韓3カ国における情報交換ネットワークやミサイル防衛システムの連携・構築、共通防衛協力ガイドラインの設定、緊急事態に関する対応措置が必要である。この状況下で、韓国が米国から指揮権移譲を目指すのは(文在寅大統領は任期中の実現を公約しているが)いかがなものか。


第2は、北朝鮮に対する人・モノ・カネの流通停止を外交・経済の手段を駆使して実現することである。そのためには中国だけでなく国連や国際社会の協力が必要だ。特に中国には原油供給停止を要請すべきである。


第3は米国のプレゼンスと活動を全面的に支援協力する体制を確保することだ。防衛力を質量とも充実する必要があり、防衛費増については国民の理解と支持を得ることが欠かせない。


第4は、北朝鮮が体制保持困難とみて対話に応じる機会が生まれた場合、朝鮮半島の将来を展望した6カ国協議の枠組みを設置し、北朝鮮の体制を保証する代わりに核軍縮を模索することである。


いずれにしてもわれわれはこの10年、北朝鮮に時間を与えすぎた。そのつけを今、払わされようとしている。現実には、核保有国に対して軍事手段を使うのは困難だ。時間はあまり残っておらず、議論するよりできることを実行することが優先されるべきである。


2017年5月