安全保障・防衛・国際政治・外交問題のスペシャリスト 森本敏

森本敏の国際観


「G20は国際秩序回復の機会だ」


人間社会の平和や秩序は、基本的に法に基づいて維持されている。国内で自由で平和な社会に安全に生きられるのは、法と法執行機関のおかげである。国際社会の平和も国際法と、これを守る国連などの執行機関によって維持されてきた。


仮に、国連憲章に違反して武力行使や威嚇を行い、国連安保理決議でこれが認定されれば制裁を受ける。しかし、このルールが有効に機能しないことがある。それは安保理常任理事国が拒否権を発動して安保理決議が採決されない場合である。また、サイバー・宇宙など従来の国際法が想定していなかった事象も起こっている。


≪事態はますます深刻化している≫

ハンガリー動乱やプラハの春におけるソ連軍の行動は、安保理が機能しなかった例である。しかるに、冷戦後30年がたっても、国際法に基づく秩序維持が難しく、事態はますます深刻化し、近年では国際機構の機能も低下している。そして、この多くが大国の利己主義によるものである。


ロシアは周辺諸国に非正規軍を派遣して領土や勢力拡張を図っている。グルジア紛争で同国領土の20%を占拠し、ウクライナからクリミア半島全てを略奪し、ウクライナ艦船と乗員を拘束し、親ロシア派勢力を通じてウクライナ東部を支配している。この全てが国際法違反である。


シリアに4千人の兵力を送り、兵器の実験場にして殺戮(さつりく)を繰り返し、リビア、ベネズエラにも傭兵(ようへい)や軍事力を送り、戦略兵器の近代化や宇宙・サイバー攻撃を盛んに行っている。極東でも千島列島中部の松輪島に中距離ミサイル(INF)を配備する準備をしているといわれる。


中国は中越紛争以降、陸地ではなく海洋への進出を繰り返し、南シナ海ではパラセル(西沙)諸島を取り、スプラトリー(南沙)諸島では7つの人工構築物を建設して軍事力を配備した。あとはスカボロー礁に人工構築物を造れば、南シナ海全域を支配できる状態にある。これは明らかに常設仲裁裁判所判決無視の行為である。東シナ海でもガス田採掘や尖閣周辺で、領海侵入を繰り返している。


≪安保理常任理事国がとる態度か≫

中国の軍事力近代化のスピードは猛烈で軍事力は2050年を待たずに米国に追いつくであろう。


米国の懸念通り中国は他国の技術や情報を窃取して軍民融合を進めているが、これらも法的には違反行為が多い。中国は一帯一路政策のもとで、途上国に返済不能の借財を負わせて見返りを取っているが、このやり方は卑劣である。


スリランカは債務の代わりに港を99年間、中国企業に使わせることになった。モルディブは国内総生産(GDP)の30%に当たる負債、パキスタンも港の建設に100億ドルの負債を負わされている。


ジブチはGDPの80%に相当する負債が返済できずに、自国内に中国軍基地を造らせた。エクアドルは65億ドルの負債の見返りに、原油の対中輸出を合意させられた。アルゼンチンは負債の見返りに50年間の土地借款と衛星基地建設を認めさせられた。


これが安保理常任理事国の態度である。どれだけ貧困にあえぐ人々が、この犠牲になっているか計り知れない。


米国の態度も感心しない。既存の国際経済機構を損なう行動をとり、そのため国際経済の構造は変質を迫られている。


かつて日本に強制したことのある環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を拒否して自由貿易協定(FTA)交渉(日本は物品貿易協定=TAG=と言っている)を迫るやり方は利己的すぎる。


しかし、北朝鮮やイランの不法行為に対する厳しい対応は国際秩序に貢献している。北朝鮮には断固として対応し、スモールパッケージの取引をしないでほしい。このところ米国の北朝鮮への脅威感やプライオリティーが低下していることは懸念される。


≪日本は積極的なイニシアチブを≫

支持率の落ちた韓国政権も南北融和のアプローチをとる可能性がある。最近、非武装地帯(DMZ)で歩哨所や歩哨員がなくなり、地雷の撤去も進み、飛行禁止区域もでき、米韓合同演習も終結し、半島の抑止機能が急速に低下している。韓国で北朝鮮への脅威感が消滅しているからであろう。


近く行われる日米「2+2」閣僚会合で日米韓の連携を確保し、北東アジアの安定を再構築する手立てを真剣に協議してほしい。


また、米国はメキシコ移民ではなく、ロシアや中国の不法な軍事行動に対して非常事態宣言を出し、シリア・アフリカ難民や西欧に押し寄せる移民を救う措置を進めるべきではないのか。


日本は6月末に20カ国・地域(G20)首脳会合を主催する。安倍晋三首相は4月22日から欧米諸国を歴訪し、G20への対応を協議する。その際、先進7カ国(G7)がリードして国際秩序を再構築する施策を真剣に協議してほしい。今、日本ほど国際秩序回復のイニシアチブをとるのに有利な立場にある国はないのである。




2019年4月